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スタッフおすすめの本

「私が彼を殺した」 東野圭吾(著) 講談社 2002

2017.05.26

東野圭吾さんと言えば思い浮かぶのは『ガリレオ』『容疑者Xの献身』『白夜行』等がありますが、「加賀恭一郎シリーズ」もなかなか面白い本です。1~10まであり『卒業』『眠りの森』『どちらかが彼女を殺した』『悪意』『私が彼を殺した』『うそをもうひとつだけ』『赤い指』『新参者』『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』一つ一つ独立した作品になっているので順番に読まなくてもシリーズの一部を読んでも楽しめるのですが、刊行順に読んだほうがいいかなと思います。この中で印象に残ったのは『私が彼を殺した』の作品で本来なら最後に犯人の名前が判明するストーリーがこの本には無く「犯人はあなたです」で終わり「えっ誰?知りたい」と思い読んだ人に一緒に謎を解いてみない?と、もう一回思い出して犯人を当てようと紙に書いてお互いの考えを出し合いながら会話を楽しめる本だなと思いました。また『悪意』もおすすめです。読後に「だまされた!」と言いたくなる本です。(C)
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「晏子」 宮城谷正光(著) 新潮社 1994

2017.01.23

中国の春秋時代(紀元前770年~紀元前403年)の斉の国、名将晏弱とその子で名宰相となる晏嬰の、凛とした生き様を書いた歴史小説です。
中国の歴史小説というと興味を抱く人が少ないかもしれませんが、宮城谷氏の登場人物の見事な描写に、読み終えた時は氏の別の作品も必ず読みたくなること請け合います。「牛首馬肉」はこの作品を読んで知りましたが、このことわざの場面などは、普段味わえないとても痛快な気分になりました。元気が欲しい時には、とてもお勧めの本です。(O)

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「ラノベとブンガク 書店ガール5」 碧野圭[著] PHP研究所 2016.5

2016.11.30

書店ガールシリーズの中では、私はこの「5」が一番おもしろかったです。書店ガールの登場人物は皆、本に対する愛にあふれていて、その「愛」が登場人物の気持ちを結び付け、幸せな大団円へとストーリーが盛り上がっていくのです。今作の主人公は男女2人。本の森取手店の店長になった宮崎彩加。小さな駅ナカ書店でも、アルバイトの子達を巻き込んで、お客様の心に届く店作りに励みます。一方の主人公は、小幡伸光。新設のライトノベル文庫の編集長に任じられ、新しいレーベルの命運をかけて、新人賞を獲得した『鋼と銀の雨がふる』を何とか爆発的なヒットにつなげようと奔走します。この2人の物語が重なって、アルバイトの田中君の家族愛もからまってお話はラストへと昇華していくのです。 著者の碧野さんはライトノベルの編集者だった経歴を生かし、出版社の現状などがリアルに描かれていて、読む物を引き付け、飽きさせません。逆境の中にあっても、登場人物が各々の立場で、プロフェッショナルとして誠意を持って仕事にあたる姿が、読んでいて幸せな気持ちになります。(i)
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「第2図書係補佐」 又吉直樹[著] 幻冬舎 2011.11

2016.09.29

昨年、小説「火花」で芥川賞を受賞したお笑い芸人である著者が、太宰治や江戸川乱歩から村上春樹などバラエティーに富んだ数々の作品を紹介しながら自身を語るエッセイ集です。生活の傍らに常に本という存在があるほど読書好きであること、本を読んだから救われたことや思いついたこと、いつも本に助けられてばかりだという又吉さんの思いが本書のエピソードから伝わってきます。
又吉さんの幼少時代のあまり裕福ではなかった話や青春時代の恋愛話、彼の独特な風貌や行動から当時の同級生や街で出会う人たちに変わり者扱いされたり、奇妙だけど笑えるエピソードや、自分の人生を考えさせられるような気持ちになったりしました。そんな彼自身の話が大半を占めているのですが、それと絡めて最後に2,3行の作品紹介がされています。作品紹介はほんの数行なのに何故かその作品が気になって今度読んでみようかなという気にさせられたのは彼の優れた文章によるものなのだと思います。(R)

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「お菓子作りのなぜ?がわかる本」 相原一吉 東京 : 文化出版局 , 2001.9

2016.07.22

バターケーキを作るとき、バターを室温でやわらかくし、泡だて器でクリーム状にします。ここまでで、かなり時間がかかりますが、この本では、バターを薄切りにしボールに貼り付け、しばらく置いてへらで練り、やわらかくならないときは5秒くらいずつ電子レンジにかけるという方法が紹介されています。バターケーキで一番大事なことは、いかにクリーミングするかであり、それがどの程度かは写真と共に説明があるので、ここまでの作業がサクサクと進みます。また、卵をいれるときには、卵黄と卵白に分けて加える別立て法の方が卵をそのまま入れる全卵刷り込み方よりなぜよいかということなど、お菓子作りで疑問に思うことにも丁寧に答えてくれる本です。しかも、オーブンを開けた時の出来上がりが、写真そのもの。美味しいという声を聞くと、お菓子作りがますます楽しくなるでしょう。(N)

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「だれも知らない小さな国」 佐藤さとる 講談社 2010.9

2016.05.31

人気作家の出版した作品が、私がこどもの頃に繰り返し読み込んだ作品の続きを綴ったものと知り大変驚いたことがあります。人気作家と原作者の対談が機になったようで、京都光華女子大学
図書館に原作を所蔵しているので紹介したいと思います。物語は、こどもの頃にお気に入りの小山で小人を見たことから、どんどん小人と小山に魅了されていく主人公と味方を探している小人達との探り合いの過程が長い年月を挟んで描かれています。また、小山を買い取り住まいを作るための様子や小人達との交流も楽しくてワクワクします。シリーズとして刊行されていて、小人達の生活を描いたものや、新たな人間たちとの関わりを描いています。薄味ですが、恋バナも入ってるんですよ。某アニメスタジオには、海外より日本の小人の作品を映画化してくれれば…と願っていますが、過去にアニメ化されていることもあって難しいのかもしれません。ぜひ、機会があれば手に取って読んで欲しいと思います。そして、皆さんがこどもの頃好きだった作品を読み返してみてください。新しい発見があるやもしれません。(Z)

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『第七官界彷徨』 尾崎翠 河出書房新社 2009.7

2016.04.13

みなさんは尾崎翠という作家をご存知でしょうか?私がこの名前を知ったのははるか昔、大学生の頃です。当時は小説の面白さに目覚めていろんな作品を読んでいました。
そんな時に友人が読んでいたのが、この『第七官界彷徨(だいななかんかいほうこう)』でした。初めて聞いた作家名と不思議な響きをもつタイトルに心惹かれたものの、結局、読むにはいたりませんでした。

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ようやく読む機会を得たのは、かなり後になってからです。
「よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。」冒頭の文章から一気に惹き込まれました。主人公の町子は人間の五官を超えた第六感をさらに超えた、第七官に響く詩を書きたいと願っており、変わり者の兄二人と従兄と暮らすことから物語は始まります。昭和8年の作品なので、出てくる言葉やものごとにはなじみにくいかもしれません。それでも「ひとつの恋」がどのように現れ、進んでいくのか、不思議とすらすら読み進むことができました。研究者である兄たちは、今でいうところの精神科医と蘚(コケ)の恋愛!?の研究者という変ったキャラクターで魅力的です。○○みたいな小説と言うことのできない、不思議な世界を感じることができます。 (P)

「トウ小平」エズラ・F・ヴォーゲル著 講談社現代新書 2015.11

2016.02.02

一般的には中華人民共和国のことを、「中国四千年の歴史」という言葉がよく使われますが、四千年の中でも1900年から現在に至る約100年間は激変の時代といえるでしょう。

 その100年の中でも中華人民共和国成立からの約60年は、中国史に残る期間であり、その中心に存在したのが、まさに「トウ小平」でした。トウ小平が行った「改革開放」政策や「天安門事件」の対応などの出来事を、社会学者のエズラ・F・ヴォーゲルに橋爪大三郎教授が、インタヴューをして諸問題を的確に解説するという本です。インタヴュー形式なので読みやすく書かれているので、皆さんも一読して、現在中華人民共和国が抱えている「人権問題」「環境問題」「領土問題」「経済問題」等の理解に触れてみては如何ですか?   (T)

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 ※「トウ小平」の「トウ」は「登」+「おおざと偏」

「鼠、闇に跳ぶ」 赤川次郎著 角川書店 2012.6

2015.11.30

赤川次郎の大ファンで、特に三毛猫ホームズシリーズの本が好きで読んでいました。久しぶりに、まだ読んでいない本がないかなと図書館の文庫の棚を見ていたら時代物が目につき、赤川次郎には珍しいな、と思い手にとりました。調べてみるとやはり、赤川次郎の初の時代小説ということでした。

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主人公は通称「甘酒屋の次郎吉」と言う遊び人で、夜中になれば屋根瓦を身軽に渡る「鼠」と呼ばれる盗人という裏の顔を持っています。また、次郎吉には小袖という小太力の達人でもある妹がいます。
第2巻の「鼠、闇に跳ぶ」では、兄の次郎吉こと「鼠」が夜中に事件に巻き込まれ、またひょんなことから犯人探しに協力を頼まれて、しっかり者の妹の小袖も一緒に活躍します。
次郎吉がある事件で助けを依頼された依頼者に恋をする少し切ない話もあり、全体にハラハラドキドキする内容となっています。三毛猫ホームズの主人公も刑事の兄と事件に協力する妹の話でよく似ていますが、このシリーズも同様に面白いです。この「鼠」シリーズは、既に8冊が刊行されていて、図書館には7巻までが入っています。
赤川次郎らしい内容で、非常に読みやすく一冊を数時間で読めます。通勤・通学時間に、読書の秋におすすめです。  (C)

『ひとりではじめたアフリカボランティア : 渋谷ギャル店員』栗山さやか著 金の星社 , 2015.4

2015.07.23

なんとなく誘われて学生時代に渋谷109のショップ店員になり、そのまま就職。お金を稼ぐことに必死になっていた矢先、親友が乳癌で他界したことで、この先の人生をどう生きればいいのかと深く考えるようになり、栗山さんは2006年に長くて2年ほどの予定でバックパックを背負って日本を出ます。

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東南アジアから中東へめぐる中、日本だったら当たり前の事が通用しない不平等なことを多く目の当たりにしたことで、「困っている人の役に立ちたい」という思いが強くなり、アフリカに渡り、HIVや貧困、伝染病に苦しんでいる人たちを収容する施設のボランティア活動を始めます。その後、暴力が横行し治安が最悪なモザンビークで、「一番弱い立場にある人たちに病気や栄養についての正しい知識を提供し、少しでもお金の稼げる手段を一緒に考えたい」とたった一人で協会「アシャンテママ」(「ありがとう、みんな」の意味)を立ち上げます。現在は協会の仕事を並行しながら、2014年に現地で医療技術師の国家資格を取得した栗山さんの約10年の軌跡が記されています。
自分を必要としてくれる人がいるなら、出来るだけのことをしよう。一見すると無計画でありながら、目の前のことにがむしゃらに頑張ってきた栗山さんは、ただ強い意志を持っているというだけではない、悲しい時は人一倍悲しむ感受性をもった人だからこそ、彼女を信用し、周りに人が集まったのではないでしょうか。彼女のひとりではじめた行動が広がりつつあります。自分にも何かできないか、そんな気持ちになる一冊です。(M)

『音楽家ならだれでも知っておきたい「呼吸」のこと :豊かに響き合う歌声のために』 バーバラ・コナブル著 誠信書房 2004.7

2015.07.20

小学校や中学校で合唱を経験した方は練習の時に先生から「背筋をピンと伸ばして!顔をあげて!大きな口あけて!」なんて言われませんでしたか?残念ながらこれは不正解。これでは思うような声は出ず、長時間歌うと声が潰れてしまい大変です。どうして駄目なのか。それは歌うときに必要な身体のしくみや、呼吸の構造と動きが理解できていないからなのです。歌うときの呼吸法で「腹式呼吸」がありますが、これは吸った空気がお腹に入って大きく膨らんでいるのではありません。肺に空気が入ると横隔膜が押し下げられ、それが内臓を押すためにお腹が膨らんでいるのです。

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では、この横隔膜ってどこかわかりますか?答えはP26をご覧ください。この本は歌いながら気持ちよく呼吸するための方法を、イラストを使いわかりやすく解説しています。歌う方のために書かれていますが、身体の構造がわかるので、この知識を他に役立てることもできるのではと思います。自分の身体について、知ってみませんか?(R)

「神話を訪ねて : 日本人の源流」産経新聞大阪本社 2013

2015.05.15

2013年には、伊勢神宮が20年出雲大社が60年に一度の遷宮が行われたり、昨今では奈良県の明日香地域に巨大石溝が発見され、埋葬者が舒明天皇?蘇我蝦夷?と騒がれたりと、古代史が注目を集めています。この本は2012年7月から2013年1月まで産経新聞に連載されたものを収録したものです。日本が誕生した神話の世界から古代社会に移行する様子が分かり易く描かれており、古代社会を彷彿させます。特にイザナキノミコトとイザナミノミコトが日本列島を創った過程や、天照大御神が天岩屋戸に閉じこもった場面は、興味深く感じました。また、2016年は初代天皇の神武天皇崩御から2600年を数える年にあたり、色々と企画が計画されています。皆さんも一度、気宇壮大なスケールの神話の世界を覗いてみてはいかがですか。
(T)

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大江戸食べ物歳時記 (新潮文庫な-80-1)永山久夫著 新潮社 2013.5

2015.05.15

今、和食がブームである。この本からは江戸の食事情や歳時記を通して和食文化を知ることができる。江戸時代も文化・文政の頃になると食文化は飛躍的に発展する。江戸など一部の都市部で食されていた白米飯は羽釜を使ったかまど炊き。江戸時代の人は今よりおいしいご飯を食べていたそうである。

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「おかず」という言葉が生まれ「一汁三菜」が定着したのもこのころである。江戸の人が食べていた卵かけごはんも土用のうなぎも今に受け継がれているが、それだけではない。春には花見、潮干狩り、秋にはキノコ狩りなどを楽しみ、正月、お盆など季節ごとに旬の食べ物をとりながら、健康的な食事法をすでに実行していたのである。たとえば料理の基本である日本の「だし」には、体や脳の老化を防ぐ成分が含まれている。また、黒い食べ物(黒ごま、黒豆、黒砂糖など)に含まれている抗酸化物質で夏バテを防止し、「百薬の毒を解する」(薬の副作用を防ぐ)ために味噌汁を飲んでいた。和食文化はユネスコの文化遺産に登録されたが、食生活を通して先人の知識、知恵にふれることができる1冊である。(N)

「道なき道を行け : A Pathfinder」藤田浩之著 小学館, 2013.10

2015.01.20

藤田浩之さんってご存知ですか?私はこの本を読むまで藤田さんの事を知りませんでした。アメリカのクリーブランドでCEQという医療機器開発メーカーのCEOとして活躍され、米国商務省顧問、クリーブランド財団理事などに就任し、大統領の「一般教書演説」に日本人では初めて招待された方です。藤田氏は、「仁義」と「人として正しい生き方をしよう」という経営に対する信念を持ち、金儲けのためではなく、自分の能力がどれだけ社会に還元できるかという考えで、起業されました。「人生を歩むときは、ドーナツの穴を見るのではなく、ドーナツを見よ」これは、著者の心が湿った気持ちに支配された時に、クリーブランドで父親のような存在のラトナー氏から言われた言葉です。簡単に説明すると、ドーナツの穴の大小にかかわらず、目の前にあるものに対して感謝の心を持ちなさいと言う事です。経営者だけでなく、多くの方に人生の参考になる一冊だと思います。(M)

 

「神様」 川上弘美著 中央公論新社,2001.10

2015.01.20

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この作品は、不思議な「生き物」たちとのやさしくせつない9つの短編集です。その中でも特に心に残った、くまが登場する最初と最後の短編を紹介します。
最初の短編「神様」は、三つとなりに引っ越して来たくまと、散歩に出かけるお話。くまは、人間のように礼儀正しいけれど、川に飛び込み魚をとったりオレンジの皮をこっそり食べたり、くまらしい一面も見せます。散歩の終わりには、抱擁を交わし、和やかでほのぼのとした一日を過ごします。
最後の短編「草上の昼食」では、もうすぐ故郷に帰るくまと、ふたたび散歩に出かけます。人間の世界になじみきれずに帰ってしまうくま。主人公はその気持ちを察しながらも、何も言うことができない。できることは、熊の神様と人間の神様、それぞれの神様に相手の幸せを祈ることでした。家族や友達でも、相手の気持ちをすべて理解することはむずかしいです。けれど、決して重なり合うことはできなくても、主人公とくまのように互いにそっと寄り添い、幸せを祈ることはできるのではないか、と思わせてくれる一冊でした。  (A)

「猫泥棒と木曜日のキッチン」橋本紡[著] 新潮社, 2008.12

2014.07.21

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生活環境から、精神的自立が早まった高校生・みずき。父が不在なことも、母が家を出たことも、弟と二人で生きなければならないことも、冷静な心で受け止めている。感情が欠落しているのか、麻痺しているのか。みずきは、親に頼らなくても生きてきた。これからも生きられるだろうという希望を、乗り越えられない「死」に阻まれた。教えてくれたのは、小さな守られるべき存在だった。
今まで泣くべき時に泣けなかった。体の中に溜まった感情は、いつか爆発する。その行動は奇怪かもしれない。猫の主人の行動に、溜めていた怒りが重なった。自分勝手で、自己満足にしか映らなかった。他人の感情は、推測しかできないのに。
家族の形は、家族の数だけある。血のつながりだけが家族ではない。守るべき存在、守りたい存在、守られている安心感。未来は切り開くものであり、「死」は誰にでも訪れること。タイトルや表紙からは想像つかない過激な描写がありますが、読後は爽やかさが読者を包み込むでしょう。
(蛍)

「統計学が最強の学問である」西内 啓 [著] ダイヤモンド社 2013.1

2014.06.23

皆さん、統計リテラシーをぜひ身に付けましょう。だって統計学は多くの分野で利用されるし、何よりこの世の中、数字に強いほうが何かと有利な社会ですからね。統計学と聞いただけで逃げ出す人やジンマシンが出る人も多いと思いますが、この本はそんな方々もちょっと気楽に読めます。難しい数式はほとんど使わず、やさしく統計の勘どころを説いてくれる読み物として書かれているからです。「最強の学問」なんて題名はキワどいし、「統計学を制する者が世界を制する」なんて大げさなフレーズがバンバン出てくるのですが、著者の自信が伝わってきて、なぜかスカッとします。

 

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この本では、まず冒頭の「あみだくじの必勝法」という話で読者をつかみます。うん、確かに役に立ちそうだ。そしてサンプリング、誤差と因果関係、ランダム化など統計学の重要なポイントを具体的な例を使って、くだけた文章で説明してくれます。いま話題の「ビッグデータ」も登場しますよ。ところどころで「現代のおっさんたち」を登場させてイジるのもご愛嬌で、読者に理解させるため工夫が感じられます。実は後半ちょっと難しくなって、ほんとにコレが30万部を超えるベストセラーになったの?と驚いたりもするのですが、データの扱いや統計的な考え方に強くなるためには、確かに役立つ本だといえそうです。

(Pen)

「神去なあなあ日常」三浦しをん[著] 徳間書店、2009.5

2014.06.23

すべてがなあなあな神去村に平野勇気はやってきた。横浜から、林業をやるために。けれどそこは、やることも見つからずブラブラしていた勇気に、先生が勝手に決めた就職先だった。林業なんてかっこわるい、その上仕事はうまくできない悔しさで村から逃げ出そうとしていた。そんな勇気を取り巻く神去村の人々の「なあなあ」気風と荘厳な神去山が、徐々に勇気を変えてゆくのだが…。
本書は公開中の映画「WOOD JOB!(ウッジョブ)」の原作です。主人公の勇気が、突然放り込まれた仕事場で、何とかかんとかやりがいを見出していく青春サクセス?ストーリーといったところがメインですが…私は勇気の不器用な恋も見どころと思います。勇気がパソコンに打ち込んだ秘密の記録、という体の文体も読みやすく、個性溢れるキャラクター達も魅力です。二作目「神去なあなあ夜話」では恋がメインですので、興味がある方は二作目も是非読んでみてください。  (ringo)

 

『おむすびの祈り「森のイスキア」こころの歳時記』 佐藤初女[著]  集英社 2005.7

2014.01.23

「日本の自殺者数は、毎年3万人前後。交通事故で亡くなる方の6倍とも言われています―」
現在、私はうつ病患者らの支援をすべく、音楽を通じて活動を行っています。その仲間の繋がりで佐藤初女さんという方の存在を知りました。彼女は青森県の弘前に住み、岩木山の麓に「森のイスキア」という心と命を感じる施設を建て、そこへ訪ねる方々を心のこもった料理でもてなしています。その本のなかには面白いエピソードがたくさんありました。一番驚いたのは、彼女の握ったおむすびを食べて自殺を思いとどまった人がいるというのです。まさかと思い、本を読み進めていくと食事と生き方には親密な関係があることがわかってきました。「すべてのものに命はあります。その声を聞くことがとても大切です」これが彼女の哲学だそうです。子どもの頃に患った大病から食べ物の重要性を痛感することになった初女さん。それも、おいしいものを食べれば元気になれるという単純すぎる理屈を素直に実践し続けてきた初女さん。その信念の中には、様々な思いが詰め込まれていました。最後まで読むと、なんだか自分の心が解放されたような、そんな気持ちになります。是非、一度手に取ってみてください。
(yan)

 

「100回泣くこと」 中村航[著] 小学館, 2005.11

2014.01.23

この小説のタイトル「100回泣くこと」の意味は、どういうことなのだろう?

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著者はこの話を書き始めた時にパソコンのファイル名として最初につけた仮タイトルそのままで、彼女が亡くなる前の100日と亡くした後の100日を描こうと思ってつけたものと言っている。
主人公は結婚を約束した彼女に「練習が必要だと思うの」と言われ、1年くらい結婚したつもりになって結婚の練習という名の同棲生活を開始した。幸せを噛みしめ来年もこの幸せは続くと思っていた二人だったが、彼女が卵巣がんにかかり、リンパ節への転移もありがんを全て取りきることが出来ず抗がん剤の投与を余儀なくされる。結局抗がん剤も効かなくり…。    負けずに必死に病魔と闘う彼女の姿や彼女を支える彼の思いのむなしさや、彼女への思いの深さに感動しボロボロと泣きました。「100回泣くこと」の意味を考えながら、読んでみてほしい1冊です。(T)

「チョコレートの歴史物語」 サラ・モス、アレクサンダー・バデノック 著 堤理華 訳 原書房 2013.1

2014.01.23

この本は『お菓子の図書館』というシリーズの1冊です。
チョコレートの歴史は古代マヤ文明までさかのぼり、固形ではなく「飲み物」としてもてはやされました。

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その後18世紀になり、みなさんご存知の「食べる」チョコレートになりますが、イギリス中流階級の結婚式などでしかお目にかかれない特別なものだったそうです。さらに19世紀、ヨーロッパから北米へいき、庶民に広まりチョコレートビジネスが盛んになっていきます。
南米から始まりヨーロッパへと世界を渡るチョコレート、その存在は人々を魅了し、人々の争いの発端になることもあったそうです。単純な食べ物の歴史の書籍ではなく、波乱万丈なチョコレートの物語が描かれています。
もうすぐバレンタイン、チョコレートたちに出会う機会も増えますね。食べるばかりでなく、この深い歴史にも触れてみてはいかかでしょう?ちなみに、巻末にはレシピ集も掲載されていますので、こちらも参考にしてみてください。   (R)

『永遠の0 (ゼロ)』 百田尚樹 [著]  講談社, 2009.7

2013.07.18

泣きました。涙が止まらなくなり、いくつものページに涙のシミができました。
終戦から60年たって、戦闘機「零戦」による特攻で戦死した祖父の生涯を調べていた青年は、特攻で生き残った元兵士を訪ねて歩きます。そして「操縦は天才だが臆病者・卑怯者だった」という人物像を聞かされて戸惑いながらも、祖父の生きた足跡を追いかけて少しずつ実像に迫っていきます。

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「娘に会うまでは死ねない。妻との約束を守るために絶対に生きて帰る」と言い続けていた祖父は、結局自ら特攻に志願して死んでいったことがわかりました。何故なのか。その謎が明らかになった時、意外な真実が浮かんできたのです。
「ボックス!」「影法師」そして今年の本屋大賞を受賞した「海賊と呼ばれた男」などさまざまなジャンルで骨太な作品を世に出してきた百田尚樹のデビュー作です。実在の撃墜王が登場するなど史実に忠実に描かれていますが、決して戦記物ではなく、温かいヒューマンドラマです。現在、岡田准一主演で映画化が進んでおり、今年の12月に封切りになるそうです。いったいどんな映画になるのか、原作と比べるのもまた楽しみですね。        (Pen)

『だから、僕は学校へ行く!』 乙武洋匡著 講談社文庫 2010.9

2013.07.18

著者は東京都の小学校で3年間の任期付き教師になった。朝日新聞のコラムでこの記事を読み「なぜ、教師に?」と思ったが、この本で、その答えを得た。著者は『五体不満足』でついたイメージをリセットするため、スポーツライターをしていたが、社会のため、子供達のために

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教育への転身を決め、教育現場を見たいと、「新宿区子どもの生き方パートナー」になり、小中学校や教育施設に行く。また、教育界に参加するために教員免許取得を目指すが、当初、教師になるためではなかった。しかし、徐々に教師になりたいという思いが芽生え始めていることに気づき、著者は子供達に「それぞれ、違っていていいんだよ」というメッセージを伝えるために教壇に立つことを決める。著者が見てまわった教育現場の情報や著者の意見(それぞれの学校の工夫、地域連携、学校での子どもたちの様子、学力、不登校、体罰・・・)を読み、教育について改めて考えさせられた。また、教育実習の現場を見に来た著者の恩師の「教育はね・・・最後は人柄、人間性だから」という言葉は教育の問題を解決してくれそうなキーワードひとつとして心に響いた。 (N)

『往復書簡』 湊かなえ[著] 幻冬舎 2010.9 913.6/MiKa(3階閲覧室)

2013.04.02

この小説は、「十年後の卒業文集」、「二十年後の宿題」、「十五年後の補習」の三部構成になっていて、それぞれ手紙の形で物語が進められている。その中の「二十年後の宿題」は「北のカナリアたち」という題名で映画化された。

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退職し入院中の元教師が、小学校の教え子の青年に、今はみな成人している他の教え子たちの現在の状況を見てきてほしいと依頼するところから物語が始まる。
20年前、クラスの数人の教え子を連れて川へ遊びに行き、そこで不幸な事故が起きてそれぞれの子供たちの心に一つの傷を残した。頼まれた青年はそのひとりひとりの教え子たちを尋ねて、話を聞き先生に手紙で報告する。その中で事故についていろいろな事実が分かってくる。そして最後に青年自身も思わぬ事実を知ってしまうことになる。
ひとり会うたびに新事実が次々と出てきて物語に引き込まれていく。同じ出来事を体験した者でも、一人ひとりが違う捉え方をしていているところが興味深く、書簡形式のストーリーがミステリーを盛り上げている。  (K)