「八朔の雪-みをつくし料理帖」高田郁著 ハルキ文庫(角川書店) 2009
2018.03.23
主人公の澪は、十八歳のおっとり癒し系女子。大坂で洪水により目前で両親を亡くし、天涯孤独だったが縁あって一流料亭に下働きとして引き取られ、味覚の鋭さを認められ料理人として修業をしていました。ところが、店が延焼により焼失。江戸に出店している亭主夫婦の息子を頼って夫婦と共に江戸に来たものの、店は無く息子も行方不明。亭主は心労により亡くなり、母とも慕う女将、芳と二人残されます。そこを、澪に早世した一人娘の面影を見た蕎麦屋「つるや」の亭主種市に雇われ働くことになります。店を任されることになり、閉店も覚悟するほど振るわなかった「つるや」も、澪の頑張りや周囲の人々の尽力により江戸で評判の店になります。店をつぶそうと卑怯な嫌がらせを繰り返すライバル店、料理のファンなのにツンデレな戯作者、何かと助けてくれるお医者様、歯は無くとも百戦錬磨の老いた看板娘、澪を慕う下働きの少女、そして、恋しい人、大事な親友…。おっとりしている澪の料理に対する情熱と、これでもかと降りかかる艱難辛苦に涙が止まりません。何よりも料理が美味しそうで食べたくなります。作中の料理は作者が実際に調理したもので、レシピが巻末に付いているので自分で作ることができます。江戸と上方の風習の違いが書かれていて、澪だけでなく読み手も驚くばかりです。時代小説に慣れない人にも読みやすい文章で、時にユーモラスに物語は進みます。「時代小説って難しい…」と考えすぎずに、普段手にしないジャンルもどんどんチャレンジしてみてください。そして、涙もろい人は号泣必至なので個室でお読みくださいませ。(KZ)