図書館からのお知らせ

「ボクの音楽武者修行」小澤征爾著 新潮文庫 1980年

2024.12.06

「まったく知らなかったものを知る、見る、ということは、実に妙な感じがするもので、ぼくはそのたびにシリと背中の間の所がゾクゾクしちまう。日本を出てから帰ってくるまで、二年余り、いくつかのゾクゾクに出会った。」

こんな書き出しで始まるのは、指揮者、小澤征爾の自伝的エッセイです。小澤さんは2024年2月にこの世を去りましたが、この本を書いたときはまだ26才。世界的指揮者へのスタートを切ったばかりでした。

1959年当時、日本から外国に行くことは、非常にむずかしいことでした。しかしながら「外国の音楽をやるためには、その音楽の生まれた土、そこに住んでいる人間、をじかに知りたい。」そう思った著者は、貨物船で一人フランスへ向かいます。スクーターでヨーロッパを旅しながら、様々な出来事や多くの人に出会い、チャンスをつかんでいくのです。その才能と行動力で颯爽とステージを駆け上がっていく姿は、実に痛快で心をワクワクさせてくれます。

全体を通して感じるのは明るさと力強さ、そしてやさしさです。初めて訪れたヨーロッパ、アメリカで見たこと、感じたことが、飾り気のない率直な言葉で語られています。

数々の大切な人たちとの出会い、それは著者自身の人間力によってもたらされたのだと思わずにはいられません。

読んだら元気になる、何度も読み返したくなる一冊です。 (e) (2階文庫コーナー 新潮文庫 お-14-1)