「ジェンダー・クライム」天童荒太著, 文藝春秋, 2024.01
2024.03.28
重苦しい犯罪小説ですが、ページを捲るのがもどかしいくらいスピード感があり、一気に読み上げました。
あらすじは、猟奇殺人事件が発生し、強行犯係の鞍岡は本庁一課の志波と組み、被害者を調べます。被害者は三年前に起きた性犯罪事件の加害者家族でした。復讐を暗示するメッセージが残されていたことから、過去の事件を調べます。加害者が政界の有力者と関係があったため裁判にもならず、被害者と家族は崩壊していました。そして、新たに事件の関係者が殺害されます。二つの事件の被害者、加害者、それぞれの家族、捜査をする刑事たち。物語は進むにつれ、日本での様々なジェンダー格差を浮かびあがらせていきます。
「性犯罪」被害者は、性別、年齢に関係ありません。海外と比べ比較的「安全な日本」であっても多発し、告発や報道がされていますが氷山の一角です。必ずしも、加害者が判明し法の裁きが下されるわけでもなく、被害者やその家族が受けた心身のダメージは生涯消えることはありません。事件が明らかになるにつれ、登場人物たちの背景や不条理な現実が露わにされ、読み手である我々も考えるのです。「私は今まで、何ら疑問を感じなかった」と。
後味は良くありませんが、どこかさっぱりしたところを感じるのは著者の持ち味でしょうか。この本を通してそれぞれの立場で事件を考えてみてほしいです。
(KZ)