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「ニシノユキヒコの恋と冒険」川上弘美著  新潮文庫 (2階文庫コーナー)

2008.11.19

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タイトルの彼「ニシノユキヒコ」について、10人の女性がそれぞれ語る連作短編小説。文庫の解説を引用させていてだくと「稀代のダメ男、ニシノユキヒコのあらゆる時代の姿、恋愛を冷徹な視線で描く一方で、各篇の語り手である女性たちの、そのときどきの気持ち、愛についての考え方を浮き彫りにする」とある。いつも女性を愛そうと努力するのにできない、可哀相な彼。そして、そんな彼をわかってしまう彼女たちは、彼の元を去ってしまう…。この短編集の第1話「パフェー」はその中で、かなり異色、というか幻想的。数々の女性たちと出会い別れてきたニシノさんが、年月をへて、付き合っていた時の約束を果たしに彼女の元を訪れる話です。ひととき、確かにあった時間を懐かしむ濃密な時間が、二人の間で淡々とかわされてゆきます。読んだあとに、夏目漱石の「夢十夜」の第一夜を思い出しました。「こんな夢を見た」で始まる第一夜は、死を目前にした女性が、「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と男に告げるという、これまた不思議な話です。どちらも、すでに嬉しさも寂しさもなく、約束はただ静かに確かに果される。それだけに二人の関係が思われます。(P)

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