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流浪の月 凪良ゆう【著】 東京創元社

2022.05.09

2020年本屋大賞受賞作品。広瀬すず、松坂桃李といった豪華俳優陣で映像化されたことでも注目を集めています。

この作品を貫く大きなテーマは「ともに生きるということ」。自分自身に違和感を感じながら生きる青年・文と、家族を失った孤独な少女・更紗。2人は出会い、わずかな月日を過ごします。ただし周囲から見た彼らは、誘拐犯とその被害者、という許されない関係でした。

月日が流れ、ふたたび2人は巡り会います。すでにたくさん傷つけられて大人になった彼らは、一緒に過ごした思い出を唯一の拠りどころとして、心のなかで大切にし続けました。文とともに生きることを望む更紗は、何度も「これは恋ではない」と自分に言い聞かせますが、やがてその想いは、すべてを敵に回してでも彼を守りたいというものに変わっていきます。しかしそれは「愛」という言葉で表せるほど単純なものでもありませんでした。彼女はその気持ちを次のような言葉で語ります。

「わたしがわたしでいるために、なくてはならないもの、みたいな」

自分が自分であるために、どんな困難からも逃げない更紗の態度からは、人を想う気持ちの裏側にある、危うさのようなものを読み取ることが出来ます。時にそれは、常識や思いやりで成り立つわたしたちの優しい世界を一瞬で飛び越え、破壊してしまうような側面も併せ持ちます。心の底から誰かを大切にするには、自分や相手のなかの負の部分も互いに引き受けていく深い覚悟が必要なのかも知れません。

現在進行形で恋愛中の人にも、まだまだ全然興味ないよ!という人にも、是非手に取って、誰かと「ともに生きるということ」について思いを巡らせてもらいたい一冊です。<high>

(3階閲覧室)