『第七官界彷徨』 尾崎翠 河出書房新社 2009.7
2016.04.13
みなさんは尾崎翠という作家をご存知でしょうか?私がこの名前を知ったのははるか昔、大学生の頃です。当時は小説の面白さに目覚めていろんな作品を読んでいました。
そんな時に友人が読んでいたのが、この『第七官界彷徨(だいななかんかいほうこう)』でした。初めて聞いた作家名と不思議な響きをもつタイトルに心惹かれたものの、結局、読むにはいたりませんでした。
ようやく読む機会を得たのは、かなり後になってからです。
「よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。」冒頭の文章から一気に惹き込まれました。主人公の町子は人間の五官を超えた第六感をさらに超えた、第七官に響く詩を書きたいと願っており、変わり者の兄二人と従兄と暮らすことから物語は始まります。昭和8年の作品なので、出てくる言葉やものごとにはなじみにくいかもしれません。それでも「ひとつの恋」がどのように現れ、進んでいくのか、不思議とすらすら読み進むことができました。研究者である兄たちは、今でいうところの精神科医と蘚(コケ)の恋愛!?の研究者という変ったキャラクターで魅力的です。○○みたいな小説と言うことのできない、不思議な世界を感じることができます。 (P)